恋する魔法使い≪見習い≫

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いつか一緒にティータイムを


 ッて気付けばニーナってばまた音楽科の校舎来てるし!
なんか、雅生君に会いたいような、会いたくないような気持ちって、すごくむずがゆい。
 遠くから見れればいいや。って、あれ〜? 雅生君はどこにいるんだろ〜・・・・・・。
「あれ? ニーナちゃん?」
 振り向くとそこに雅生君が立っていた。
 って、不意打ちぃ!
 うそ、なんで? 近寄ってくる雅生君を見たら急に動悸が激しくなって声が出にくくなった。
「え、えと。どうも・・・」
 無意識に視線が下に落ちる。
 俯き加減のニーナに雅生君は首を傾げ、初めて高等部の校舎で声をかけた時みたいに優しく覗き込む。
「どうしたの? 何か探し物?」
「う、ううん。そういうわけじゃなくって、その」
 どうしよう、雅生君の顔がすぐそこにあるよ!?
 あれれ、ニーナどうしたんだろう。会えて嬉しいのに、うまく言葉が出てこない。
「なんでもないんだ。ごめん、ありがと。それじゃ」
 そういってニーナはその場から逃げ出そうと走り出したけれど、ニーナの腕はすぐに雅生君に引っぱられて引き戻された。
 な、なに? なんでニーナ雅生君の腕の中にすっぽり収まっちゃってるの?!
 急な出来事で何が起こったのかニーナには判らない。ただ、何故か雅生君に手を引かれて二人一緒に地面に倒れこんでいるということだけ。

 な に が お き て る の ?

「あぶなかったぁ」
 雅生君がニーナを抱え込んだまま安堵のため息を漏らしたのが聞こえた。・・・ような気がする。だってドキドキして頭ん中パニック起きてて、正直言って現状把握が大変困難なのですよ?
 ガシャン、カラカラカラ・・・・・・と金属っぽい音がこだましているのがようやくわかったころ、ニーナの進行方向にあった改装工事用の資材の山がバラバラと崩れているのがわかった。雅生君に助けられなければ転んで大怪我していたかもしれない。
「ま、雅生君ッ大丈夫だから・・・はな、はなしてっ!」
「あ、ごめんね」
 動揺しまくりで目の前がぐるぐる回ってるみたいだった。お礼も言わずに突き飛ばして雅生君から離れたのに、嫌な顔ひとつせずに心配してくれる。
 雅生君の手がニーナをしっかり捕まえているお陰で、下に広がる瓦礫に傷つけられる事はなかったが、触れている手が熱くてドキドキが半端ない。


「どうしたの? 大丈夫?」
 校舎から黒髪の女生徒が駆け出してくるのがみえた。
あ、やばい。優奈だ。
「ニーナ?」
 近くまで来た優奈はスカートが汚れるのも気にせずしゃがみこんでニーナを覗き込む。
 やばい。どうしよう。
 ニーナは慌てて雅生君の手を振り払うと、大急ぎで逃げようとした。しかしどういう訳か足が動かない。まぁ、どうもこうも無く優奈が魔力で動けないようにしているのだけれど。
 ひえぇ、どどど、どうしよう。
「真辺さん、彼女と知り合いなの?」
 雅生君が軽く首をかしげて優奈にきいた。
「城之崎君…。ええ、私の妹なの」
「妹?」
 ますますやばい。嘘がばれちゃったよ〜? どうする、ニーナ! ますますもって私の株が大暴落だよぉッ?
 しかしニーナがぐるぐる目を回しているすぐ側で、雅生君はにっこり笑った。
「そっか、やっぱり」
「え? やっぱり?」
「そうじゃないかなあって思ってたんだ。真辺さんとニーナちゃん似てるもんね」
「そ、そうかな?」
 初めて言われたよ、似てるなんて。
完全にパパ似のタレ目、黒髪、サラサラストレートの優奈に対してニーナはママ似の栗色巻き毛、パッチリ目玉だ。似てる要素が多分他の人より著しく足りないはず。
「初めて言われたわ、城之崎君」
「うん。外見は違うけどね、話し方とか雰囲気が似ているような気がしてたんだ」
「雅生君」
 うれしそうな笑みではにかむ優奈を見て、なんだかちょっとイラっとした。
「に、似てないよっ! 私のほうが絶対かわいいもんっ!」
 大声張り上げていうようなことじゃない。わかってるよ。わかってたけど、出ちゃったんだもんっ。
 優奈が穏やかに笑ってニーナを見てる。「まったく、困った子ね」って顔でニーナを見てる。なにさ、なにさなにさぁぁ!
「二人とも泥だらけね。保健室へ行きましょう」
 なんだよぉ、そうやって優奈はいっつもいっつも、いーーーーっっも穏やかに笑うんだから!
 ふと振り返ってみたら、雅生君が優奈の白い手に触れて頬が赤くなっていた。

 なによ、それ。

ニーナの胸がぎゅっと苦しくなった。
「優奈ちゃんっ! ニーナ反省会はお家でやるからっ!!」
「きゃっ」
 バチィッ! って静電気みたいな光がはじけた。実際、掌がジリジリしてすごく痛くて、泣きそうになったけど、でもこのときニーナは初めて優奈の魔力を打ち破った。あんまり突然の発輝だったから、優奈の目が丸くなったみたいだった。
「ニーナ・・・?」
「ごめん、先に帰るっ!」
 我に返って立ち上がるとニーナは猛ダッシュでそこから逃げ出した。





走りながら、ニーナは考えていた。ひたすら、ひたすら。雅生君が優奈の手をとったときに見せたあの表情は、なんだったんだろうと考えていた。


恋じゃなきゃいいのに。


優奈の片思いならいいのに。


だって雅生君優奈のコトは憧れだって言ってたもん。
 

いやだよ。ニーナも雅生君が好きなんだから。


「のわっ!」
「おっと、ニーナ?!」
 前を見ないで突っ走ってきたニーナは、ポーチの前で立っていたゴローに気づかずに思いっきり激突した。ゴローもまた、落ち込んでボーっと突っ立っていたものだから、ニーナのタックルにびっくりして耳が生えてしまっていた。けれどそんな突然の出来事にも関わらずその両腕はちゃんとニーナを抱きとめている。
「ニーナ?! どうしたんですか?」
 ゴローが慌ててニーナのほっぺたに触れる。
「なによっ!」
「なにって、泣いてるから・・・」
「ないてなんかっ!」
 考えるより早く言い放ったけれど、ゴローが拭ってくれた掌には、確かにニーナの涙がついていた。ニーナ、泣いてる? なんで?
 本当はわかっていた。雅生君の見せたあの表情が優奈のハニカミと同じだったということを。わかっていたけれど、認めたくなかったんだ。・・・・・・・・・認めたくなかったのに。
「う、うわ、うわあぁぁぁぁん!!」
 ニーナ、失恋したんだって判っちゃったじゃない。
「に、ニーナ?!」
 突然大声を張り上げて泣き始めたニーナに、ゴローは一瞬たじろいだが、すぐにニーナの頭を優しく包み込んで、何度も何度も撫で続けた。
「うわぁぁん、ニーナ、失恋しちゃったよぉぉ」
 ゴローの腕の中で泣き続けるニーナは、その服が皴になるのも構わずにぎゅっと握り締めて、初めての失恋の痛みを感じ続けていた。





「恋愛って素敵なことなのよ」


 優奈がいってた言葉が頭の中をグルグルしている。
 なにがいいの?
 こんなに辛いのに。
 雅生君はもう優奈が好きなんだもん。ニーナは失恋しちゃったんだもん。
 こんな思いをしなくちゃいけないなら、ニーナはもう恋愛なんてしたくない。
 恋愛なんて、ちっとも素敵じゃない。


 ニーナは一人ぼっちなんだ。



 そう思ったら、また悲しくなって涙が溢れ出した。
 ダイスキな優奈は雅生君のもの。
 雅生君はもう、優奈のもの・・・・・・・・・。



「ニーナひとりぼっちだぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「・・・・・・・・・・・・が・・・・・・ですか」
 ニーナの頭を抱えこみながらゴローが何か言った。ってか、何か言うんならもっとオッきい声で言いなさいよ。ニーナは泣いてるんだから小さい声なんか聞き取れないんだからぁっ!
「声が小さいんだよぉぉっ! ばかスライムがぁっ!」
 そんな風に、またいつもの八つ当たり。
 ニーナ、自分でもよく判ってる。これは八つ当たり。だけどすごく辛いんだもん。すごく、すごく、すごく辛いんだもん!!
「ニーナ。俺が傍にいるじゃないですか。俺は・・・・・・・・・・・・・・・。俺はあなたのことが好きなんです」
 ――――――え・・・・・・・・・?
 ニーナを抱きしめる腕の力が少し強くなった。
 な、に・・・・・・?
 びっくりして涙が止まったし!
「ずっと前からあなただけを想ってるんです。ニーナ」
「ちょ、な、なにいってんの!! ってか、は、放して・・・・・・!」
 ニーナが渾身の力を込めてゴローの胸を押してみたけど、びくともしない。
 それどころかゴローの体の熱がどんどん上がっていくのを感じて、ニーナまで熱くなってきちゃったし! 変な汗出てきたし!!
「放せません。今俺顔見られたくないです」
「ちょ、何馬鹿なこと言ってんさ! ゴローがすきなのは優奈でしょぉお?」
 だっていつも優奈のこと見てたじゃん!
「優奈様のことは確かに好きですよ。でも、好きの意味が違うんです。俺が本当の意味で好きなのは―――」
「わ――――――――!!!!! うッさいだまれぇ! アホスライムのくせに!! ばかぁ!」
「ニーナ・・・・・・。本当に可愛いですね」
「ぎゃーーー! ばかぁ! だまれったらだまれぇ! そんでもってはなせぇ!」
 なにこいつ! 本当に本当になにこいつ! 急に箍が外れたみたいに!!
 ってか、可愛いとか言うなぁ!! ぎゅってすんなぁ!! ひ〜〜〜ん!
「なんといわれても放せません。やるならどうぞ猫にさせてください」
 ネコに! いいよ、するわよ! だから杓丈出させなさいよぉ!
 そう思って何とか顔を上げたそのとき、ゴローの顔が耳まで真っ赤になっているのが見えた。・・・・・・ような気がした。だって次の瞬間にはゴローの腕がぱっと開いて、あっという間に開放されたもんだから、視線が定まらなかったんだもん。でもって定まった頃には生意気な顔したゴローが“してやったり”な顔でニーナのこと見下ろしてた。
「ニーナ、元気でました?」
「かっ、からかったわけぇ!?」
 ニーナのことスキとか言って、抱きしめておいて・・・・・・・・・!!
「あー、可愛そうなニーナ。ダイスキな優奈様をダサオに取られ一人ぼっちですかぁ〜。だぁいじょうぶですよぉ〜、俺がずっと傍にいてあげますからね〜」
 ぎぃぃ〜〜〜〜! この顔がむかつく! このジャラジャラ装飾のついたアオザイみたいなのがむかつく! 身長の差がむかつくぅぅぅぅぅ!
「んな!! す、スライムのくせにぃぃぃぃ!!! パパに言いつけてやるからぁっ!!!」
 

 すばしっこく逃げ回るゴローを追いかけながら、ニーナは少し大人になった気がしてた。
だってね、判っちゃったんだもん。これがゴローの励まし方なんだって。ニーナがいつまでも落ち込まないように、言ってくれたんだよね。「好きだ」ってさ。
ほんと、紛らわしいけど、おかげで気持ちも少しは浮上できた。
 ニーナの初恋は実らなかったけど、それでも、雅生君を思った時間は大切な思い出になったんだと思う。
 それに、やっぱりニーナは優奈のこともダイスキだから。
 いつか二人がうちの庭でティータームを過ごしてくれたら素敵だろうなぁって思うんだ。






 あれ? でも、そうなると、ゴローは一体誰がすきだったんだろう・・・・・・?
 よくわかんないや。


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