stray sheep

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第二章 「初恋のかけら」


 あれから三日間私のバイト先には毎日テッタが来ていた。行きも帰りも必ずついててくれたんだけど、私的にはドキドキしちゃってありがた迷惑だった。っていうかさ、これはもう認めなきゃダメなのかな? テッタが・・・・・・・・・・・・・・・好きだって。
「でもさ、あんなの不意打ちだよね。卑怯だよね?」
 いつもはのんびりほわわんで馬鹿で間抜けでおっちょこちょいで、いや、間抜けでおっちょこちょいはちがうか。いやいやでも、とにかく! 私のあこがれてる理想の人はかっこよくて背も高くって強くって・・・・・・あれ? でもこの間のテッタはかっこよかったよね・・・・・・。背だっていつの間にか私より高くなってて・・・・・・ってだからそうじゃなくってぇ!
 あれ以来こんな感じでずっと頭の中をテッタがぐるぐる回って出てくるから、私はもう落ち着かなくって家を飛び出した。
きっと部屋の中っていう空間がダメなのよ。外の空気を吸って気分転換をすれば・・・・・・。
「か〜い〜り〜さ〜んっ」
 げ、テッタ! やだやだやだ、どうしようっ、どっか隠れるところ・・・・・・っ!
「? なにやてるんですか? ダンスの練習?」
「ち、ちがうわよっ!」
「ねね、カイリさん、どこに行くんですか?」
 もう、何で家に来るかなぁ? 昨日でバイトは終わったんだから迎えに来なくっていいって昨日言ったじゃん。
「べつにどこだっていいでしょぉ」
「え〜、デートしましょうよ☆ 俺、おいしい紅茶出してくれるところ知ってるんですよ」
 人懐っこい笑顔でついてくるテッタを背中で感じれば、心臓の音が激しくなっていくから、隠すように速足になる。
「カイリさぁ〜ん、どこ行くんですかぁ? ねぇってばぁ」
「うるさい、ついてくるなぁ」
「しゅうん」
 しゅうん、言うな。
 テッタのことを考えないようにするための気分転換なのに、一緒にいたら転換できないっての!
 なのに、テッタはいつの間にか歩幅をそろえてニコニコしながら隣を歩いていた。そして。
「カイリさん、またあいつ来てますよ。本当にしつこいやつですね」
「えっ?」
「もう一回きちんと判ってもらいましょうか」
 テッタはニコニコしているくせにどこか厭な感じのする嬌笑を浮かべていて、直感的、本能的に戦わせてはダメだと思った。
「だ、大丈夫だから! このままどっか行こう! ああ、そのおいしい紅茶のお店だっけ? そことかさ」
「え? 本当ですかぁ! 嬉しいなぁ、じゃあいきましょう! すぐに」
「え、ちょ・・・手!」
 屈託ない笑顔をむけられた次の瞬間、テッタに手を引かれ走り出す。前を走るテッタの背中を、私はずっとドキドキしながら見つめていた。
 私、本当にテッタのこと、好き、なのかな・・・・・・?
 そのまましばらく走って、あの巨体なら絶対に追いつけないだろうと藤ノ宮の私鉄に乗り込んだ。
 あれ? 何で藤ノ宮私鉄?
「ねぇテッタ? そろそろ手を・・・」
 あれからずっと手を握られたままで、これをどうやって外したらいいかがわからない。ただもう気恥ずかしくて、たまらない。休み中とはいえ藤ノ宮の生徒に会う確立はすこぶる高いって言うのに、手をつないだ状態を見られるのは顔から火が出る感じだよ?
 なのにテッタは唇を尖らせて上目遣い。
「だめですよ。もしかしたらまだついてきてるかもしれないじゃないですか。こうしていれば俺が守れますから、ね?」
「うぅ・・・・・・」
 だからその目は反則だってば。
「で、でも・・・」
 さっき手を引かれながら振り返ったとき、それらしい人影が見つけられなかったんだけどなぁ。
「ね、ねぇ、テッタ?」
「なんですか?」
「あ〜・・・、うー・・・・・・」
 話を変えるために話題を探して、昨夜気がついたことを思い出した。
「なんで、辻本先輩に襲われたときは反撃しなかったの? アンタあんなに強いのに・・・」
 そうよ、ストーカーなデブメガネを一撃できる腕があるのに、どうして辻本先輩のときはやられっぱなしで居たんだろうって、不思議だったんだ。あんなに首に・・・・・・されたのに。
「ふふん! 脳ある雉は爪を隠すんですよ! カイリさん」
「・・・・・・・・・・・・鷹、ね?」
「やだなぁ、雉でしょ?」
「・・・・・・・・・・・・」
 脳みそも筋肉か? よくもここまで胸張っていえるもんだわ。おかげで顔の熱も少し下がったわよ。って、まぁそれはともかく。
「もったいないよ。私すごくびっくりしたんだから。ね、何か武道でもやってるの?」
「うわぁ、カイリさんもしかして惚れました?」
「なッ、んなわけないでしょうッ!」
「ちぇ。俺の力はカイリさんを守るためだけにあるんですよ。だから俺のためには使いません。判りやすいでしょ?」
 判りやすいって・・・。
「俺はいつだってカイリさんのことが一番なんです。これはなにがあっても変わりませんよ」
 ぎゃー! その笑顔でそんなセリフ吐くなッ! 私、顔ばっかり茹で上がっちゃうじゃないっ!
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