stray sheep

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初恋のかけら


 翌日から私は、誰もいない時間を狙って父の書斎を少しずつひっくり返すことにした。あのときの様子から察するに、両親は何かを隠している。だから気づかれないように、調べるために出したものは、すべて元通りにするように細心の注意を払って・・・・・・。
「一体、どこにあるんだろう」
 うちにあるアルバムのすべてはこの書斎にあるっていってたよね。いままであんまり興味がなくて見たことなかったけど、きっとそこに隠された何かのヒントがあるはずだわ。
 神経質な父が隠しそうな場所を重点的に探していたけれど、数日かかってもアルバムの一つも見つからない。おかしいと思った。普通の家にあって然るべきの思い出の写真。それがこれだけ探しても出てこないなんておかしすぎる。私は本棚の奥に隠し扉でもあるんじゃないかと一段丸ごと本を取り出してみた。するとその奥に、小指一本入るくらいの小さな穴を見つけた。
「ビンゴ・・・?」
 いかにも、的な小さな穴は、やはり本棚の奥を上げ底するように空間を作っていた。そっと小指を入れて引き出してみる。
「・・・・・・・・・手紙・・・・・・?」
 なにこれ。アルバムじゃなかった。
 目当てのものではなかったために、急に後ろめたくなった。アルバムならともかく、手紙だなんて。
「お父さんのかな?」
 無機質な白い封筒はいくらか黄ばんでいたけれど、皴ひとつなく綺麗に積み重ねられ、その切り口もきちんとペーパーナイフで開封されていた。几帳面さが、この手紙の束が父のものだと主張しているみたいだった。
「中見たらすごく怒るだろうなぁ」
 普段あまり怒らない人のほうが、キレた時恐ろしいものよね。
 そう思ってその手紙の束を戻して本棚も直した。
「今日も見つからなかった・・・・・・」
 ポケットの中で、バイブにしたアラームが時間切れを告げている。そろそろ別のことしないと夕食の間に話す事が見つからない。
「はぁ」
 ため息をついて視線を落としたとき、机の下の不可思議な絨毯の拠れに気がついた。・・・・・・あやしい。そう思ってそっと椅子をどかし、絨毯をめくってみると、そこには小型の床下金庫のようなものが埋まっていた。
 ますますあやしい。これが目当てのものであっても、そうでなくても、こんな風に隠す必要のあるものが自分の家にあること自体不思議だ。
「一体、なにが入ってるんだろう」
 ごくり、唾を飲み込んで小さな電子版に指を乗せる。こういう場合、お父さんならどんな暗証番号にするだろう。スヌーズにしたアラームがもう一度震えて時間切れを宣告するけど、今やらなければ絶対眠れない。
 お父さんなら、どんな暗号に・・・・・・。


 名前?


 そう考えて父の名前、母の名前、自分の名前を数字に当てはめようとしたけれど、ケンタロウ、ユメカ、カイリ。どれをとっても数字になんかなりゃしない。同じように誕生日にしてみても、打つだけ無駄だった。
 暗証番号として登録されているのは四桁の数字。思い浮かぶすべての数字を打ち込んでみたけれど、どれもハズレだった。
「うぅ。ここにはなにが入っているのよ」
 三回目のアラームが震えた瞬間、父の言葉を突然思い出した。
 ―――音羽の御曹司が傍にいるんだぞ?
「音羽・・・・・・」
 なぜそれを急に思い出したのかは判らなかったが、奇しくも数字に置き換えられるその名前を、指が自然に打ち込んでいた。




 ―――0100おとわ―――




  ガション。
 小さく開錠の音を立てて足元の金庫が開いた。
「あい・・・た」
 この中に、きっと・・・・・・。
 確信でもなんでもなかったけど、この中にあるような気がしていた。ドキドキする心臓を押さえながらゆっくりと扉を開ける。思ったよりずっと軽いその扉の中には、黒い表紙のアルバムがきちんと並べられて収まっていた。
 やっぱり、あった。
 一冊ずつ抜いていこうと思ったけれど、またここにきてドキドキしながら家捜しするのは落ち着かないし、面倒くさかった。まとめて引っ張り出して、金庫をあったとおりに戻す。
「ふぅ、この中に、きっと」
 最後にもう一度だけ辺りを見回して部屋の中を見渡す。よし、大丈夫。いつもと同じ。
 だけど、十七年間のアルバムにしては少ないような気がする。私、もしかして愛されてなかったとか?
 一人っ子なのに、たった4冊しかないアルバムを抱え、私は自分の部屋に戻った。


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