stray sheep

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第一章  「桜舞う恋のメインストリート」


 やっと今日の授業が半分終わって、次は体育。こうしてみんなおそろいのジャージになっても、きっと辻本先輩はステキなんだよね。あーあ。先輩と同じクラスだったらよかったのになぁ。ちえっ。
 男女平等が謳われる世の中に従い、うちの学校でもジャージに色の区別はない。在るのは学年の違いだけ。そして当然のように隣を歩くテッタは、こうしてジャージを着ていると女の子に見えてしまうほど華奢なつくりをしていた。
 こういうところも、イヤなのよ。私は。男の人はもっとがっしりしてて、守ってくれるような筋肉がなくちゃ。そう、辻本先輩のように…。
「あれ?次は体育なの?」
「!辻本先輩!」
 運命みたいに廊下の角から先輩が顔を出した。
 うっそー!こんなところで会えるなんて夢みたいッ!
「は、はいっ。そうなんです!今日はバスケなんです」
「そっか。バスケは楽しいよね」
「はいっ!」
「あれ?その子は?」
「えと…」
 テッタが変な風に先輩に突っかかったらどうしようかと、軽く不安になって、紹介が中途半端になってしまった。今思えばこの時ちゃんと紹介していれば、あんな面倒な事にはならなかったのに…。まさに、後悔先に立たず、の瞬間だった。
「はじめまして。辻本先輩。お噂はこねごねカイリさんから聞いています」
「こね…ごね?」
「あ、えっと。かねがねって言いたかったんです!きっと。そうよね?」
「え?そうなの?こねごねじゃなかったっけ?」
 もう、真面目に小学校から出直して来いッ!
 恥ずかしくて顔から火が出そうだった。だけど先輩は屈託ない笑顔を見せる。ああ、白い歯が光ってステキ。
「きみ、面白いね!僕の事知っててくれたみたいで嬉しいよ。よかったら、僕と付き合わない?」
………………!?
 ん?いま、何か聞こえた?
 また幻聴かな、私の目の前で先輩が………テッタに、告白!?
「先輩彼女いるじゃないですか」
 テッタが引きつった笑顔で言った。
「ああ、実は先週別れたんだ。今はフリーだし、僕君の事気に入っちゃたし。どう?損はないと思うけどな」
 先輩がテッタの肩に手を回す。
 先輩、フリーだったんだ。………ってそうじゃなくて!
「あの、この子は…」
 男の子なんです。
 って言うはずだった。なのに、テッタが先輩の手を払い除け、ついでに私の口を塞いでるからもごもごってなって言葉にならない。なんで?
「先輩。いつも彼女が違いますよね?お…私そういう風に軽い人好きじゃないんです」
「あれ、キツイ事言われちゃったな。僕は女の子の申し出を断れないだけなんだけど」
「とにかくそういうことなんで。行こ。カイリちゃん」
 えっ、ちょっと…。
 テッタにぐいっと手を引かれて歩き出す。
「あ、待って」
「遅れちゃうんで」
 どこから出しているのか声もちょっと女の子っぽい。
 先輩がクラリきちゃうのも判る気がする。……だからイヤなのよ。女の子よりも可愛い男って、どうよ。
 なんてことを思いながら、ちらりと見たテッタの横顔はちょっと怒りぎみ。まあ、女の子に間違われた上に告白されて、しかも来るもの拒まず宣言でしょ。そりゃぁカチンともくるわよね。慣れてない人は。
手を引かれながら振り返ると、先輩はニコニコしながら手を振っていた。
「またあとでね〜」
 ぎゅっ。
 テッタの、私の手を握る力が少しだけ強くなった。
「なんであんなのがいいの?カイリさん」
 はい?
「あいつはいつも女の子に囲まれてて、とっかえひっかえで、ひどいやつなのに。どうしてあいつが好きなの?カイリさん」
 テッタがまたぎゅってした。さっきは女の子っぽい気がしてたテッタの声が、今はいつもと同じ、男の子っぽい。そういえば、この手も…。
 テッタは立ち止まり振りかえる。そして。
「俺はあなただけなのに」
「テッタ…」
 不覚にもドキッとした。だってテッタってば手を握ったまま真っ直ぐ目を見つめるんだもん。
「カイリさん。俺と付き合ってよ。絶対大事にする」
 うそ。どうしよう。なんかすごくドキドキしてきた。まってよ。相手はテッタなんだよ?よく考えて!私!
「いいよ。っていって」
 テッタが。女の子みたいな顔したテッタが。真剣な顔で見つめてくる。どうしよう。なんだか耳が熱い。
「私…」
 その時またチャイムが鳴った。
 テッタは固まったままの私を見て、ふわりと笑った。
「本当に好きだから。俺」
 テッタがゆっくりと手を解いて体育館へ消えていく。私はただ、それを見送るしか出来なかった。
「私、おかしくなっちゃった…?なんでテッタなんかに、こんな……」
 ぽたり。
 なにかが溢れた気がした。

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