stray sheep

PREV | NEXT | 高等部へ

第一章  「桜舞う恋のメインストリート」


 テッタが私を好きだと言い出したのは高校の入学式の翌日。
 学都を治める藤ノ宮財閥はそれを辿ると平安時代の有名な貴族に当たるという。下は幼稚舎から始まり、上は研究施設まで持っているというこの学園で途中入学の生徒は珍しい。とはいえ、学ぶ意志のあるものに対しての受け入れ態勢は寛大で学費も通常の私立に通う程度で大丈夫なんだから、人が集まるのは自然な事。難点は人が多すぎて誰がどの校舎の人なのかがわかんないってことかな。
 そんな中でテッタは私を見つけて飛んできた。
はじめて見たテッタはまるきり女の子で、何でイキナリ女の子に告られてるのかわかんなくって「NO百合宣言」して追い払ったんだっけ。そういえばなんであの時入学式だったにもかかわらず制服じゃなかったんだろう。制服着てたら男の子だってわかる筈なんだけどな。
「俺、変じゃないですか?」
「どこを突っ込んで欲しいの?」
 ぼけぇっと昔を振り返っていた私の目の前で、テッタは赤いリボンのついたフリルのスカートを身に着けていた。上半身は同色のボレロ。蜂蜜色の短い髪には丁寧に編み込みまで施されている。
「ちゃんと女の子に見えます?」
「みえるわよ。私以上に」
「カイリさん以上なんてなれませんよ。普通に女の子に見えればそれで」
 テッタはそういうけど、クラスメイトの(特に男子の)視線まで釘付けにしてるのわかんないのかな。軽くむかつく。大体その編み込み誰にやってもらったのよ。
「カイリさんもしかしてやきもちですか?」
「は?」
「だってこの髪の事気にしてくれたから」
 もしかして最後口に出してた?
「べ、別に」
「安心して☆カイリちゃん私がやってあげたのよ」
 振り返ると、そこに生徒会長の『弟』であるクラスメイトの高遠澄也が立っていた。彼の性別は紛れもなく 男。しかし女生徒の制服で校内を走り回るその姿はまさに女子より女子!という、変態の呼び声高いクラスメイトなのだ。栗色の長い髪はポニーテールで赤いリボンがよく似合う。
 だから、似合ってどうするよ。
「澄也。私は別に気にしてなんか・・・」
「そ?でもさ・・・・・・かぁわいーよねーぇテッタ☆」
「わわわ、澄也やめてよ、引っ付かないで」
 テッタが慌ててカイリにくっつく。
「こっちにくるなぁっ!」
 もう、一体なんだって言うのよ。この女装の意味は?
「これから俺、決闘しに行くんで、今日は一緒に帰れません。ごめんね、カイリさん」
「決闘?!そのカッコで?澄也と?」
 女装対決とか。
「やだ、カイリちゃん決闘なんて男のするものでしょう?」
・・・あんたも男だろ?
ったくこの学校が自由だからって女子の制服が着こなせるのもどうかと思うわよ。ホントに。
「違いますよ。男と男の勝負です。待ってなくていいですからね、俺かっこ悪いとこ見られたくないし」
 これ以上かっこよくないところがあるというの?って言葉を呑みこんで、ちょっと心配になった。基本的に華奢なつくりのテッタが男と勝負するなんてことになったら、きっと、ううん、絶対負ける。しかもその上この意味のわかんない女装。
「テッタ、何考えてる?」
「やだなあ、俺は何時だってカイリさんのことだけ考えてますよ」
「ふざけてないで、なに?決闘って、勝負って?」
 テッタがおかしなかっこしてる理由が知りたい。もしも危ない事なら止めなくちゃ。
「うれしいなぁ。俺のこと心配してくれてるんですよね!」
 え?
「みんなきいたぁ?ついに俺の想いがカイリさんにとど・・・」
「・・・いてないからっ!てか大体いつもあんたが勝手にくっついて帰るだけでしょ?!私言われなくたって一人で帰りますからッ!」
 放課後の教室に残っている人の数は元々少ないが、それでも一瞬シンと静まり返った。みんなの悲愴な顔を拝む前に慌ててバッグを引っつかんで大股で教室を後にする。
 あーもう、危ない危ない危ないよ!テッタのペースに巻き込まれてとんでもない誤解を生むところだった。私がテッタを心配?冗談じゃない。私が好きなのは辻本先輩なんだから!そう、テッタじゃない。・・・テッタじゃない・・・・・・よね?
PREV | NEXT | 高等部へ
Copyright (c) 2007 玖月ありあ All rights reserved.

-Powered by 小説HTMLの小人さん-

inserted by FC2 system