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第一章  「桜舞う恋のメインストリート」

 藤ノ宮の普通科の最寄駅まで脳内一人討論会を開催しながら速足で駆け抜ける。駅の造りが見えてきたところでよく見る特進の女子に声をかけられた。
「あ、カイリちゃん」
 去年まで同じクラスにいた早瀬ユリだった。隣には商業科の男子。
 ユリちゃんの彼氏かな?
「あ、ユリちゃん。久しぶりだね。どう?特進クラスは」
 最後まで言ってから、失敗したと後悔する。ユリが特進クラスで馴染めていないのはよく聞く噂だ。
「・・・あ、うん。だいじょうぶ」
「そう、なんだ。あ、彼氏?」
「ううん!そんなんじゃないよ。生徒会の先輩なの」
 ユリがいくらか大袈裟なほど手をブンブン振って否定する。
「初めまして。安倍カイリさん」
「え・・・?どっかであった事ありましたっけ?」
 関わる事のまったくない商業科、さらに生徒会の先輩。目の前の男子生徒にまるきり覚えがない。いや、もともと人の名前と顔を覚える事についてはかなり苦手だと自覚しているけれど。
「ああ、ごめん。俺は商業科二年の渡辺吉城。よろしくね」
「はぁ」
「噂はよく耳にするよ。クラスメイトに追いかけられてるんでしょ?」
 そう言って商業科の先輩は笑った。
 くそう、一体どこまでこの恥知られてるんだろう。
「噂と言えばその彼、今日の昼頃辻本のところに来てたよ」
「え!?」
「なんか、ジャージ姿だけだと女の子みたいだよね」
 昼休みに珍しく寄って来ないと思ったら、先輩のところに行ってたんだ・・・。でもなんで?
「いやぁ、可愛い声で 放課後お時間ください。お話しがあります。なんて言うから、俺たち『ついにあいつが男にも手を出した!!』って盛り上がったんだよ」
 なんですと?それじゃあもしかしてテッタの決闘相手ってまさか辻本先輩なわけ?
 一気に血の気が引いた。
 それはもう、力の対比がどうこうって話じゃない。よもや私を巡って決闘、なんてこと言い出したりしたら私明日から学校行けないよ。
「まったくどこまで恥ずかしい奴なの!」
「まあ、いいじゃない。彼もそれだけ君のことが好きなんだし」
「じょ、冗談じゃないですよ!私あんなおバカと付き合うなんて考えられませんから!」
「そう?結構似合いそうだけどね」
「どういう意味ですか」
 女装して決闘だなんて言うおバカとお似合いってかなりイヤなんですけど。
でもあれ?なんかおかしい。私を巡って決闘なら女装する意味は・・・?
「なんでもね、辻本が男にまで迫ったっていう事実を手に入れたいみたいだよ」
「は?」
「きっと君に目を覚ましてもらいたいんだろうね」
 ちょっと、それって先輩を騙して作るゴシップじゃない!
 なんて眉間に皺を寄せたカイリの思考を読み取ったかのように吉城はにやりと笑った。
「どうする?今から引き返せば衝撃ニュースの特ダネには間に合うと思うけど」
「どうするって、そんなの」
 先輩って・・・女にはね、そりゃすごい甘いよ。だけど男にはまるで容赦ないんだってことをきっとテッタは知らないんだ。知ってたらこんな汚名を着せるような真似できるわけない。
「あ〜〜〜〜っ!もうっ!」
 仕方ないから行ってあげるわよ!
「先輩、情報ありがとうございました」
「いいえぇ。このくらいの情報は朝飯前だよ」
 カイリはニコニコ手を振る吉城とユリに背を向け、来た道を走っていった。
「辻本の手癖の悪さはどうにかしたいもんだよね」
 吉城はユリに茶封筒を渡しながらそう言った。
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