stray sheep

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第一章  「桜舞う恋のメインストリート」

 はあ、はあ、はあ・・・。勢いに任せて戻ってきたけど、どこで話してるのかなんて知らないよ。どうしよ・・・。
 普通科の校舎手前で腰を折ってゼェゼェ呼吸する。喉が乾いて張り付くような嫌な感じ。何で私がこんな必死になって走ってこなきゃなんないのよ。
 周りを見回しても平穏な放課後の風景。手を繋いで帰る恋人に、寄り道の相談しながら自転車に乗る男子生徒の群れ、基本制服着用だけど一部の優等生には許されている私服の生徒はどれも手に参考書を持っている。
 わたしは私服OKでもがり勉だけは勘弁したいな。
 いくらか呼吸が落ち着いてきたところで、体育館から黄色い声が響いた。どうやらバスケ部の誰かがシュートを決めたらしい。ホイッスルの音がして、そのあとゾロゾロとユニフォーム姿の部員が汗を拭いながら出てくるのが見えた。
 先輩、いない。きっと今ごろテッタと話だかケンカだかしてるに違いない。
 どうしよう、急がなきゃ・・・。
 その時男子生徒に紛れてバスケ部のマネージャーが顔を出した。カイリを見つけると上履きのまま駆け出してくる。
「カイリー!どうしたのー?部活はぁ?」
 ふわふわした肩までの髪を耳の上でちょこんと二つに縛って跳ねるようにかけてくる彼女はカイリの友人で小崎アキナ。特別なことはなに一つないものの、結構人気のある女生徒の一人だ。
「ああ、アキナ。テッタ見なかった?」
「なあに?今度はカイリが追いかける番なの?」
「ちがうわよ。じゃあ、先輩見た?」
「辻本先輩?」
 こうやって「先輩」という単語一つで辻本に繋がるくらいカイリの密かな想いはバレバレなのか。この際細かい事は気にしないことにした。
「う、ん。そう辻本先輩」
「みたよ。っていうか、来たよ。今」
「え」
 アキナの指差すほうを見ると、辻本が爽やかスマイルを振りまきながら歩いてくるところだった。同朋と会話しながらも、アキナとカイリを見つけると手まで振ってくれる。
 普段のカイリなら飛び跳ねそうなくらい高鳴る胸を抑えつつアキナの横で赤くなるが、今はそんな場合じゃない。
テッタの事を聞かなくちゃ。
「先輩、あの、えっと・・・」
 どうしよう、なんて言ったらいいの?
「ん?どうしたの?安倍さん」
「ええっと」
 まごまごしてる場合じゃないのに、いつもと変わらない笑顔の辻本に圧されて上手く切り出せない。
 大体テッタの話し相手が先輩だと勝手に思い込んでここへ来たけど、確証があるわけじゃないんだ。
 しかし辻本はそれをはっきり肯定した。
「そう言えば安倍さんもひどいよね。彼がああいう男だって早く教えてくれたらよかったのに。お陰で僕危なかったよ」
 髪をかきあげ笑う辻本の手首に軽い擦り傷が見えた。
 やっぱり二人ケンカになったんだ!
「まあ、君だからそれくらいは許せるけどね。だから僕とつきあ・・・」
「あのっ、それでテッタは!?」
「え?ああ、居合わせた女の子と一緒に保健室かな。それで僕と・・・」
 保健室!
 カイリが目を見開いてその場を後に走り去ると、辻本はその背中を見ながらアキナに問い掛けた。
「あれ?安倍さんて僕のこと好きなんだよね?」
「ええ、そうだったと思いますけど、あの様子からすると音羽君の方が今は上なんじゃないですか?」
 状況を読んだのか、さらりとかわす。
「まあいいや・・・僕、今フリーで淋しいし、アキナちゃんつきあおっか」
「いいですよ。私も暇なんで」
 こんな妙な会話で交際が確定した二人のことは、翌日からバスケ部を中心に少しずつ広がっていくこととなる。


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