stray sheep

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初恋のかけら


パタン、パタン、パタン・・・・・・・・・。
 携帯を閉じたり開いたりしながら、液晶の文字を見つめていた。
 もうどれくらい時間が経ったのか、そういえば夕飯の時間だとお母さんが呼びに来た気がする。

 おかあさん・・・・・・。

 ベッドの上に無造作に散らばった黒いアルバムが視界に入る。

 おかあさん・・・・・・・・・?

 このアルバムが本当だとするなら、私は今の両親の子供じゃない。叔母と姪。それが本当の関係。そして、今まで不思議なほど【昔】に興味が向かなかったのは、あの日に聞いた『催眠が解けた』という言葉のせいに違いない。―――私は、両親と信じて疑わなかった二人に催眠をかけられ故意に記憶を封じられたの・・・・・・? でも、どうして?
 本当の両親から、私はどうして手放されたの? 私は捨てられたの? 私は一体、だれなの・・・・・・?
 他にもまだわからないことがある。催眠の件で出てきたテッタのこと。
 本当の両親、捨てられた私、そして音羽の御曹司・・・テッタ。テッタが私にどうして関係しているの?


 携帯の液晶に浮かぶマドカの名前。
 マドカは真剣に私の話を聞いてくれるだろうか・・・・・・・・・。
 まとまらない思考を、私はきちんと話しきれるかな。


 そんな風に考えながら、夜があけるまでずっと携帯を見つめていた。








「カイリ? 最近どうしたの? まだ音羽君のことで悩んでるの?」
「え?」
「ここのところ無理して笑ってるように見えたから、気になったんだけど」
 みんなの前では平然を装っていたつもりでも、親友の目はごまかせなかった。昼食をとる学園のテラスで、アキナが心配そうに覗きこむ。
「あ、ううん。そうじゃ、ないよ。大丈夫」
「・・・・・・・・・本当?」
「うん」
 家族のことも、記憶のことも、そこにテッタが関係しているらしいことも、結局誰にも話せなかった。こうして心配してくれる親友にさえもどう話したらいいのかが判らない。
「じゃあさ、カイリ。今日の放課後一緒に出かけない? 辻本先輩に、美味しいスイーツとオリジナルの紅茶を出してくれるところ教えてもらったんだ」
「紅茶?」
 不意に中等部の伊達の姿が脳裏に浮かんだ。あの物腰の柔らかそうな青年の顔は、どこかで見たこともあるような気がする。
「紅茶は・・・・・・いいや。ごめんね、アキナ」
「そっか。残念」
 アキナは肩を落とし、テーブルの上に置かれたプレートからプチトマトを口に運んだ。
 ごめんね・・・・・・・・・。
 心配して声をかけてくれたアキナや、何度も携帯に連絡をくれるマドカに、心の中で何度も謝って目を伏せる。
 自分でもどうしたいのかが判らないんだよ。
 一向に進まないランチをみつめ、そっとため息をついた。











 その後の学園生活が一変したのは連休に入ってすぐの、日曜日にかかってきた一本の電話だった。
「ハイ・・・・・・。わかり、ました」
 カチャリと小さな音を立て、通話は切断される。
 ずるずると壁に背を当てたままゆっくりと床に沈み、うわ言のように言った自分の言葉さえ理解できないほどの衝撃が身体の自由を奪ったみたいだった。
「アキナ・・・・・・?」
それは、クラスメイトで友人だった小崎アキナの、訃報の知らせだった―――――。




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